グレオ物語
生い立ち(2)
母がノラであれば、当然、私たち兄弟もノラである。
この世で最も恐ろしいものは人間である。このことを母の様子から悟る。どんなに腹が減っていても、知らない人間がいるとそこから5m以内には絶対に近寄らない。私たちノラの人間をみる目が自然と警戒的になるのは仕方のないことである。
ある日、事件が起きた。
この家の旦那が突然、私たちを追い出しにかかったのである。私たちはびっくりして蜘蛛の子を散らしたように逃げた。私たちがいなくなったことを確かめると、出入り口にしていた物置の脚部の隙間を二度と戻れないように金網でふさいだのである。
なぜこんなことになったのか、それは一枚の回覧板からだった。そこには次のような意味のことが書かれていた。
「最近、公園などで野良猫にエサをやっている人がいます。野良猫が増えると皆さんのご迷惑になります。野良猫には絶対にエサをやらないようにして下さい。」
更に、これに追い討ちをかけたのが近所からの電話であった。
「最近、野良猫がうろちょろしていません? エサもやってないのにどうしてでしょうね。」
この家の旦那、これにはすっかり参ってしまった。私たちは公園でこそ食事は貰っていないものの、物置の前では貰っていたのである。そしてこの家の人々は私たちの食事の様子を眺めては楽しんでいたのであるが、これを隣家の奥さんにしっかりと見られていたのである。
張られた金網は容易に突破できる造作であった。金網の下に頭を差込み、ぐっと体を入れ込むと金網はいとも容易に押し広がり、出入りには全く支障がなかったのである。この旦那は我々野良を少し甘くみていたふしがある。我々も生きるためには必死である。野良はヤワでは務まらないのである。しばらくの間、この物置はまた我々のねぐらとなったのである。
しかし、しかし、どうあがいても人間の技には勝てない。私たちが舞い戻ったことを知った彼は、人間の意地にかけて、この金網を補強しかかったのである。今度は完璧であった。
つづき